演出の最初の仕事は、ライターから上がってきたシナリオにそって、まずは、絵コンテを描いていくというものです。そこで、「あたしンち」のお母さんだったら、こういう話し方はしないかな? もう少し演技を足した方が面白くなりそう!といった補足をすることなどはありますね。
絵コンテの作業にかかる時間ですか?早ければ3・4日。でも「あたしンち」の日常から離れた非現実的な内容のものだったりすると、なかなかストーリーに入れなくて、3週間ぐらいかかってしまうこともありますね(苦笑)。
それで、次はアニメーターとの打ち合わせですが、ここでは、そのときのキャラクターの心情について細かく説明して、どういう動きをつけるかの指示をします。そして背景や色の打合せなども行いながら、最終工程のダビングまで演出の仕事は続きます。歩くシーンでどんな音を(歩行)つけるのか、によっても、そのシーンの印象は違ってきますから、最後まで手は抜けませんよね。
順序が逆になりましたけど、アフレコでは、わかりにくいセリフがあった場合や、より説得力のあるセリフが思いついた場合には、多少セリフを変更することもあります。でも、表情や動作については、絵コンテの段階で固め、原画のチェックで補足したりする程度で、アニメーションになってからの修正はよっぽどでないと行わないですね。
(詳細はアニメーションができるまでを参照)
私がこの作品の演出で大変だと思っているのは、食卓シーンですね。それぞれをどう動かすか、段取りを考えながらやっていくといのうは、緻密さが求められ、と〜っても手間のかかることなんですよ…(苦笑)。たとえば、みかんが食べて、ユズヒコが話して…、じゃあ、みかんはずっと食べているのか!?とか。
実写の食卓シーンですと、カメラのある位置には人は座っていませんが、「あたしンち」の場合は、家族全員がテーブル四辺に座っています。でもそれぞれに頭の大きいキャラクターなので、カメラの置く場所によっては、実際にはその先が見えなくなってしまったり…、これまた、とても考えるわけです!(笑)
そんな、一般の視聴者の方が普通に見る分には気にとめない様なことですが、「あたしンち」みたいな生活芝居というのは、こういった食卓シーンも含め、ものすごーく丁寧に演出しないといけないな、と思っています。
最後に、個人的に印象に残っている話と言えば、みかんが定期券を忘れたという話ですね。その中でマンションの窓から定期券を放り投げるシーンがありましたよね!?考えたらバカですよね!(笑)でも、日本中のどこかにそんな話あるかも!と思えるあたりも、「あたしンち」ならではの「あるある感」ですよね。


演出 パク キョンスン
過去には、「うる星やつら」の撮影スタッフを務めたこともある演出家。映画『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』では演出補佐を、『ドラえもん』のテレビシリーズ・劇場版などで演出を担当。現在は、アニメ「あたしンち」の演出に関わる。

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