「あたしンち」との最初の出会いは、読売新聞 日曜版での連載でした。面白い作品だなぁと思っていたので、アニメ「あたしンち」にスタッフとして関わることになったときは、うれしかったですね。
最初は背景スタッフとして。途中、他のアニメを担当することになったため、しばらく抜けていましたが、200話からは美術監督として、再びこの作品に関わることになりました。
背景スタッフのときには、美術監督が描いた美術ボード(背景のもとになる絵)を見て、各カットごとに本編用の絵を描いていました。美術監督がイメージした世界観を壊さぬように注意して描いていました。
映画「あたしンち」でも、背景スタッフとして絵を描いていましたが、映画ですから、当然ですがTVシリーズとは比較にならないぐらい、たくさんの背景がありましたね。タチバナ家が住んでいる街から、みかんやユズヒコの学校、それにお母さんの田舎、修学旅行先の京都などいろいろなシーンがありました。ただ劇場作品となると背景の描き込み等で時間がかかります。大勢のスタッフの中で作業していたので、あまり多くの背景はかいてません。(笑)
そんな経験をしていましたので、いったん「あたしンち」を離れて戻ってきても、すんなりと美術監督がこなせました。ただ、美術監督となると、スタッフとは仕事の内容がまるっきり違いますね。美術監督が最初に描く絵が、「あたしンち」の背景の土台となりますから責任重大です!(笑)
私が、美術監督として大事にしているのは、「あたしンち」の今の他の作品には無い、独特な世界観ですね。やはり、あの個性的なキャラクター達あっての作品ですから、キャラクターを活かせる背景、キャラクターを中心にした背景、キャラクターのジャマにならない背景、勿論、話の内容により背景が前に出ることもあるのでバランスを意識しながら、いつも背景を描いています。
ただ、原作にないストーリー(江戸時代の話とか)や、妄想シーンなどの背景を描くときは難しいですね…(苦笑)。あと、290話のお母さんが夜中にトイレに行くお話も私の中では記憶に残っています。あんまり暗くしてしまうと、母が見えなくなってしまうので、キャラがどう動くのか想像しながら作業しました。
それから、色を入れる上で背景スタッフに細かい指示をする、コミニケーションというのも美術監督として大事な仕事です。
好きなキャラクターは、そうですね…。いい加減だけど愛すべきお母さんですね(笑)。背景の中で、お母さんをはじめ、キャラクターたちが活き活きと動いていて、ストーリーも面白い。視聴者のみなさんにとっても、作り手側にとっても、印象に残る作品がひとつでも多く送り出せたらいいなと思っています。
天水 勝(てんすい まさる)
スタジオ・ユニ所属。背景制作歴30年のキャリアを持つベテラン。主な担当作品に映画「クレヨンしんちゃん」(温泉わくわく大作戦、嵐を呼ぶジャングル)、「忍者ハットリくん」など。「あたしンち」には200話〜美術監督として関わる。
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