私が担当している色彩設計は、キャラクターの肌の色から服、小物、建物や風景、背景など、すべての色を指定するお仕事です。
原作もそうですが、「あたしンち」は全体的に淡い、ほんわりとした感じの色調なので、そのあたりを大事にしながら、ストーリーごとに様々な色を指定していきます。
作業するときは、キャラクターの性格も十分に理解しながら、色彩を設計することになるのですが、たとえば「みかん」だったら、けっして奇抜な色は使いません。周囲から浮いてない、ふつうの女子高校生を意識しています。そういった意味では、「しみちゃん」に対する色使いはちょっと対照的かもしれませんね。
「母」の場合は、あの体型なので(笑)、重たい色は使わず柔らかい色を使うようにしています。ユズヒコにも派手な色は使いませんね。お父さんは、ちょっと昔の時代のお父さんをイメージして色を指定しています。
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背景の色彩設計で印象に残っているのは、クリスマスを母とユズヒコの二人で過ごすシーンです(第32話「母、メリークリスマスっ」)。実は、このときの背景にはとても凝りました〜(笑)。母と息子、二人だけのクリスマスシーンというお話し自体にもせつなさを感じました。アニメ「あたしンち」にはスタートからずっと関わっていますが、印象に残っているシーンのひとつですね。それと私の一番のお気に入りは最初のオープニングです。曲と絵がピッタリで、ずーっと心に残っています。
タチバナ家のみんなは、ユニークなキャラクターで、それぞれに魅力的ですが、私が好きなキャラクターは、母の友達の「水島さん」です。えっ、珍しいですか?「水島さん」もいいですよ〜。だって、あの「母」を受け入れてくれているんですから(笑)。それにいつも相手を肯定するところが良いですね。母と水島さんと戸山さん、三人よればかしまし…とか言いますが、戸山さんはどこか柔らかい部分をもった人ですよね。水島さんは、母の話を聞いて、「あら、やだ〜」とあいづちを打ちながらも、けっこうマイペースで自分のことも話していませんか(笑)。水島さんが出てくるシーンは、とても楽しませてもらってます。
でも、アニメ「あたしンち」は、どのシーンをとって見ても和みます。タチバナ家でいえば食事のシーン。今のご時世、家族そろって食事をするところって少なくなってきていますよね。それが「あたしンち」の中にはふつうにあります。街を歩いているとよく見かける、せわしく塾に通う生徒も「あたしンち」の中にはいません。機をてらったところがなく、安心して見られる。それが、ここまで長く視聴者に愛されている理由であり、アニメ「あたしンち」の魅力じゃないかな、と私は思っています。
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
野中 幸子(のなか さちこ)
色指定、色彩設計をして30年あまり。関わった作品は怪物くん(新)〜シンエイ作品の半分ぐらい。現在は「あたしンち」「クレヨンしんちゃん」「映画クレヨンしんちゃん」など。どれも長寿番組になってしまいました。
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